税務調査は、調査対象者の的確な選定が必須条件

税務調査五輪の書 抜粋
3. 税務調査は、調査対象者の的確な選定が必須条件
  法人税や相続税の調査は、 事前審理(準備調査)の段階で、 70%以上が終了しているといっても過言ではない。   それは、過去の調査事績や過去数年分の申告書、 関係法人や関係個人の申告書、 各部門の保有する資料情報等を全て集めて分析すれば、 自然と答えが見えてくるからである。 しかし、その域に達するまでには、 相当の経験と調査マンとしての「第六感」を身に付けなければ、 見えてこないのもまた事実である。 調査能力も、 宮本武蔵の剣の道や職人の完成された技の習得の世界と同じく、 一朝一夕では身に付かず、 長年の調査経験による知識の蓄積や平素の不断の努力、 租税正義を守る使命感に支えられてこそ向上していくものであるが、 「プロの技」習得の厳しさは、どの道でも同じである。 その中でも、調査対象者の「的確な選定」は、 国税職員の「永遠のテーマ」といわれるほど奥が深く、 後述するマルサでも告発率は70%台 (国税庁記者発表の査察部の調査事績から)に留まっているのである。 調査対象の選定で一番大切なものは、 善良な納税者と申告が適正でない納税者の見極め方である。 大多数の善良な納税者を除き、 脱税や過度の節税対策を講じている納税者を絞り込むための作業が、 「調査対象者の選定」である。 申告者全体から調査対象者を絞り込むのは、 どのくらいの割合であるかは、 国税庁の14事務年度の調査事績から読み取ることが可能である。 所得税では、事業者を母体にすれば4.5%、 法人税では4.5%、相続税では24.8%、 調査課では13.0%、となっている。 法人税で例をとれば、 100社の法人税の申告の中から4.5社に絞り込む作業である。 100社の中から「申告が適正でない企業」や 「大口・悪質な脱漏を行っていると認められる企業」に的を絞り、 4.5社までに絞り込むのである。 しかし、大口事案を担当する総合調査部門や局資料調査課や、 脱税を担当する査察部になると 非常に広範囲な納税者の中からの選定ということになり、 想像を絶する大変な作業であることも事実である。 それでは、調査対象者を的確に選定するには、何が必要なのか? 私個人としては、調査統計学の世界と調査マンとしての 第六感を合体させた分野であると考えている。 ①大局的に国税組織の膨大な調査結果を、統計学的に分析する目を養う ②その地域固有の不正常習業種や不正常習納税者を把握 ③好況業種や高収益法人等を分析 ④書店に並ぶ節税本等から流行の節税テクニックを研究する ⑤選定母体を十分絞り込む ⑥調査対象法人はもとより、 関係法人や関係者の申告書・資料情報等を全て集める ⑦「全税目」の観点から、 じっくりと分析すると「自然と問題点が浮かび上がってくる。」のである。
この「自然と問題点が浮かび上がってくる。」ことが、 調査マンとしての第六感である。
 この第六感を宮本武蔵の五輪書に倣って、 文章にしようと挑戦しているのである。 宮本武蔵も、水之巻で「此道いずれも細やかに心の儘には書き分けがたし。 縦(たと)ひことばはつづかざるというも、利はおのづからきこゆべし。 ——此書にかき付けたるを、我身にとって書付くを、 見るとおもわずならうとおもはず、 にせ物にせずして、則ち我心より見出したる利にして、 常に其の身になって、能能工夫すべし」と言っている。
税務調査の選定手法も調査マンとして 当然やるべき手順や思考の仕方しか書けないが、 この書の副題である 「税務調査の選定ポイントを抽出する能力」を朝鍛夕錬、 日々研鑽していただいて、読者の身に着けていただければ、 第六感が伝授できるのである。 調査経験が十年以上あり、調査能力も十分身に付けた人 (税務調査のプロと自負しておられる方)であれば、 この書のヒントで十分理解できるものと思っている。 これからの税務調査で特に大切なことは、調査担当者が、 従来の縦割り思考の単税目の視点からではなく、 全税目の観点からの選定眼と、 調査手法を身に付けることにあると考えている。 これからの税務調査の的確な選定を図式化すれば、 概略次のような手順がベストではないかと考えている
全納税者(法人税編) オーナー一族に
相続税等の申告があるか →YES・・・ ↓(相続税等の申告書・資料情報等の分析)
↓NO          
過去に不正があったか →YES・・・ ↓(過去の調査事績の分析)
↓NO          
不正常習・好況業種か →YES・・・ ↓(同業他社の比率と比較検討)
↓NO          
高収益法人か →YES・・・ ↓(月別売上総利益や月別推計在庫の分析)
↓NO          
資料情報があるか →YES・・・ ↓(資料情報の分析)
↓NO          
関係法人との取引はあるか →YES・・・ ↓(関係法人の申告書・資料情報等の分析) 
↓NO         ↓ ↓           
入念な事前審理 ↓           
↓ ——-(簡易な検討)———–
不正想定図が描けるか → YES → → 実地調査    
↓NO    
調査省略(簡易な接触) 申告審理で是正を要するもの・・・・・・
↓↑   TELによる修正申告のしょうよう等

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