税 務 運 営 方 針 (抜粋) 2

税 務 運 営 方 針 (抜粋) 2
国税庁発刊 第51回 事務年報 平成13年度より引用
第二 各 論
1 直税関係(1)直税事務運営の目標と共通の重点施策
 

直税事務は、社会の各層にわたる極めて多数の納税者を対象とし、加えて、納税者の生活や業務に直接影響するところが大きい所得又は資産などを課税の対象としていることから、その運営の適否は、単に直税事務にとどまらず、広く税務行政全般に対する信頼感、ひいては国民一般の納税道義に影響を持つものである。 従って、直税事務を適正に運営し、もって納税者間の負担の公平を図ることは、税務行政全体にとって極めて重要なことである。 申告納税制度の下における直税事務の目標は、すべての納税者が自ら正しい申告を行うようにすることにある。 このため、事務の運営に当っては、納税者の税歴、所得又は資産の規模、税額などに応じて、それぞれの納税者に即した調査と指導を一体的に行うことが必要である。 このような見地から、直税事務の運営に当っては、次の諸点に施策の重点を置く。 イ 青色申告者の育成
  自主的に正しい申告のできる納税者を育成するについて、その中核をなすものは青色申告であるから、青色申告者の増加と育成に一層努力する。  このため税理士会との協調を図りつつ、商工会議所、商工会、青色申告会、法人会等の関係民間団体との連携強化を更に進め、これらの団体の指導を通じて、納税者の記帳慣行の醸成と自主的な申告納税の向上が行われるようにする。
 
 ロ 調査の重点化限られたか働量で最も効率的な事務運営を行うため、調査は納税者の質的要素を加味した上、高額な者から優先的に、また、悪質な脱漏所得を有すると認められる者及び好況業種等重点業種に属する者から優先的に行うこととする。このため、調査の件数、増差割合等にとらわれることなく、納税者の実態に応じた調査日数を配分するなど、機動的、弾力的業務管理を行うよう留意する。 ハ 調査方法等の改善
税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の励行に努め、また、現況調査は必要最小限度にとどめ、 反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。  なお、納税者との接触に当っては、納税者に当局の考え方を的確に伝達し、無用の心理的負担を掛けないようにするため、納税者に送付する文書の形式、文章等をできるだけ平易、親切なものとする。  また、納税者に対する来署依頼は、納税者に経済的、心理的な負担を掛けることになるので、みだりに来署を依頼しないよう留意する。
 
 二 有効な資料・情報の収集とその活用  資料・情報は、調査対象の選定、調査ポイントの抽出などに役立つことにより、調査事務を効率化するとともに、各税事務を有機的に結び付け、調査の内容を充実するものであるので、その収集に当っては、活用効果が特に大きいと認められるものに重点を置き、調査に当っては、収集した資料・情報を十分活用することに努める。また、この趣旨を生かすよう、その事績についても、的確な管理を行う。
  ホ 納税秩序の維持  税務調査は、納税者相互間の負担の公平を図るため、国民からの信託を受けてこれを実施するものであり、すべての納税者は、本来その申告の適否について調査を受ける立場にある。従って、各種の妨害行為をもって税務調査を阻む者に対しては、納税秩序を維持し、かつ、課税の適正を期するため、これらの妨害行為に屈することなく、的確な調査を行い、 一般納税者との間に、不均衡が生ずることのないような特段の配意をする。
 
 へ 各事務系統の連携の強化  直税各税の事務は、経済活動の高度化とともに、ますます密接な関連を持ってきていることに加え、部門制の採用による事務の専門化と統括官の増加により、直税事務を一体的に運営することの必要性がますます高くなってきている。従って、事務の運営に当っては、資料の効率的収集及び活用、同時調査、同行調査、連鎖調査の効果的な実施などにより、 所得税,法人税及び資産税の各税事務が、有機的連携の下に行われるよう配意する。  なお、必要に応じ局署間、事務系統間の応援を積極釣に行う。また、直税職員は、納税者の転出入に伴う処理その他徴収部門に対する所要の連絡を迅速確実に行うことはもちろん、徴収部門から賦課交渉があった場合などには、速やかに見直しなど所要の処理を行い、 あるいは調査等で知り得た徴収上参考となる事項を確実に徴収部門に連絡するなど、徴収事務との連絡協調に努める。
  ト 事務管理のあり方  事務の管理に当っては、重複した管理を行うことにより管理事務の増大を来すことのないよう、効率的な事務管理に努めるほか、次の諸点に配意する。  
(イ) 事務計画の策定に当っては、職員、特に上席調査官等経験豊富な者の意見を聴取し、職員の建設的な意見を事務計画に採り入れるよう配意する。
 
  (ロ) 事務の分担の付与に当っては、職員の経験、適性、事案の難易等を総合勘案し、適切な分担付与を行うことに努める。特に上席調査官には重要かつ困難な事案を付与する。
 
  (ハ) 事務の進行管理に当っては、職員の創意工夫を生かすよう、職員の経験、能力、事案の内容等に応じて、それぞれ適切な管理を行うことに努める。
 
 
(2)各事務系統の重点事項 

イ 資料関係  (イ) 資料の収集については、調査事務との関連において、収集すべき資料の種類及 びその収集先に工夫を凝らし、いたずらに収集枚数にとらわれることなく、調査に直結する有効な資料の収集に努める。特に、調査の過程でなければ得られない資料について、収集の徹底を図る。   また、管理者は、重点調査対象業種の選定に役立つ資料・情報の収集についても、特段の配意をする。
 
  (ロ) 資料の活用については、一枚の資料であっても関連する税目の調査にそれぞれ使用するなど、その多角的な活用に努めるものとする。また、調査は資料を十分に活用することによって深められるものであるから、管理者は、資料が確実に活用されているかどうかについて、徹底した管理を行う。
 
  (ハ) 資料源の開発については、担当者が当るほか、一般の調査、法定資料の監査等の機会を通じて、積極的に有効資料源の開発に努める。  
  (ニ) 個々の資料・情報が関連して相互にその内容を補完し合い、納税者の実態は握に十分その効果を発揮するよう、資料・情報を長期にわたって蓄積し、継続して管理することに努める。
 
  (ホ) 資料事務の運営に当っては、収集された資料の活用結果をは握し、どのような資料が有効か、また、どのような収集方法が効率的かについて分析を行い、じ後における資料収集事務の改善を図る。                      
 口 所得税関係  申告納税制度の趣旨に沿った事務運営を行うため、次の点に配意しつつ事後調査体系の
 一層の定着に努める。
 
  (イ) 納税者が、自ら課税標準について正しい計算を行い、また、その経営を合理化していくためには、日々の取引を正確に記録する慣習がその前提となる。   この記帳慣習を育成していくため、青色申告制度はその中核をなすものであるから、  今後も引続き、青色申告者の増加に積極的に努力するとともに、適切な指導又は調査を通じて、青色申告者の質的水準の向上を図る。   なお、その普及及び指導については、地方公共団体及び関係民間団体の協力を積極的に求め、また、これらの団体の指導の対象となった事案については、それぞれの実情に応じ、その指導の効果が生かされるよう配意する。
 
  (ロ) 確定申告期における納税相談は、そのための来署依頼を原則として行わず、申告書の作成に必要な事項について相談を行うこととし、納税者自身による自発的な申告の慣行を定着させるよう努める。
  
  (ハ) 調査は、事後調査を主体として実施するが、調査対象選定のための申告審理事務は、細かいものを省略して効率的な処理を図るなどの合理的運営に努める。   また、事後処理についても高額中心に行うとともに、適正申告を行う納税者を長期的 に育成していく見地から運営する。
 
  (ニ) 営庶業所得者については、白色申告者と青色申告者の別及び所得者層の別に応じて適切な指導及び調査を行うこととし、白色申告者に対しては青色申告者より高い調査割合を確保するとともに、高額所得者を中心として調査内容の充実に努める。
 
  (ホ) その他所得者については、所得のは握が困難であるので、その管理及び調査について相当の努力をする必要がある。従って、調査技法の開発に努めるとともに、都会署におけるその他所得の調査事務量を増加し、適切な調査対象を選定し、充実した調査を行う。
 
  (へ) 一般農家に対する標準課税の事務及び農外所得のは握については、地方公共団体及び農業団体の積極的協力を求めることとし、特殊経営農家については、個別調査・指導方式による。
 
 ハ 法人税関係  (イ) 申告納税制度の下での法人税事務は、自主的に適正な申告を行う法人を着実に育成することを目標としなければならない。   このため、個々の法人の申告内容を的確には握し、その内容に応じて質的な区分を行い、指導によって適正な申告が期待できる法人に対しては、きめ細かな指導を根気よく行うとともに、他方、大口、悪質な不正を行っている法人又は不正計算を繰り返している法人に対しては、常に徹底した調査を行い、調査を通じてその是正を図るなど、その実態に即した指導又は調査を行う。
 
  (ロ) 法人の質的区分に応じた事務運営の体制は、年々の法人税事務の着実な積重ねの上にはじめて可能となるものであるから、法人に対する指導又は調査の際には握したその人的構成、帳票組織、内部けん制の状況等の情報は、申告内容の検討結果とともに、  その都度確実に記録保存し、法人の長期的管理に資することに努める
 
  (ハ) 法人数が年々増加し、取引が大型化かつ複雑化している現状において、法人の実態を的確には握するためには、職員一人一人の創意工夫によって、事務処理の効率化を図る必要がある。   このため、事務分担の方式については、あらかじめ業種又は地域等により分担を定め、同一の職員に調査・指導対象の選定から調査・指導及びその事後措置に至る一連の事務を担当させることを原則とし、個々の職員の責任を明確にし、その能力を最大限に発揮できる体制を確立することに努める。
 
 二 源泉所得税関係  源泉徴収制度の運営の適否は、源泉徴収義務者のこの制度に対する理解と認識のいかんによって影響されるところが大きいことに顧み、指導をその事務運営の基本として、優良な源泉徴収義務者の育成に努める。また、管理が多元化している現状に対処し、源泉所得税事務に関する責任体制を明確にして、その事務処理の的確化が図られる管理体制を確立する。  このため、源泉所得税事務における施策の重点を次の諸点に置く。  

(イ) 源泉徴収義務者のは握は、源泉所得税事務の基盤となるものであるから、あらゆる機会を通じて源泉徴収義務者を確実には握することに努める。また、その業種、業態、規模等に応じて適切な指導を行い、関係法令、通達等その制度の周知徹底を図り、優良な源泉徴収義務者の育成に努める。
 
  (ロ) 法源同時調査及び所源同時調査の体制は、調査事務の効率的な運営、納税者感情などの見地から設けられたことに顧み、一層これを推進する。   源泉単独調査をはじめとするその他の事務については、専担制による事務運営の体制を確立し、これを中軸として源泉所得税事務に従事する職員の源泉徴収制度に対する認識を高め、事務処理の的確化に資する。
 
  (ハ) 源泉所得税に関する事務を所掌する所得税及び法人税に関する部門並びに管理・徴収部門の各職員は、他の事務系統で所掌している事務との関連性を十分認識し、それぞれの事務が一体として運営されるよう、各事務系統間の連絡協調について特段の努力を払う。
 
 ホ 資産税関係  国民の生活水準の向上、資産の蓄積の増大等に伴い、資産税の適正化に対する社会的要請がますます大きくなっている。従って、資産税事務の運営に当っては、次の諸点に配意して適正な課税の実現に努める。
 
  (イ) 資産税事務について、限られた人員で適正かつ効率的な運営を行うため、事務又は事案の重要度に応じてか働量の重点的配分を行い、合理的な運営の徹底に努める。   この場合、例えば譲渡多発署にあっては譲渡所得事務に重点を置くなど、各署の実情に応じて各事務への適切な事務量の配分を行うほか、必要に応じ、局員又は他署職員による応援を適切に実施し、局署を通ずる機動的な事務運営に努める。
 
  (ロ)資産税関係の納税者は、関係法令などになじみが薄い場合が多いので、地方公共団体及び税理士会、農業協同組合等の関係民間団体を通じて積極的な広報活動を行い、関係法令等の周知を図る。   また、税の相談日、譲渡所得の集合説明会等の機会を活用して、自主的に適正な申告がなされるよう適切な指導を行うとともに、納付方法についても必要な説明をする。   なお、来署依頼による納税相談を実施する場合、その対象の選定に当っては、少額事案を極力省略して高額重点の考え方を徹底するとともに、その後の事務処理が効率的にできるように十分配意する。
 
  (ハ) 調査事務量を確実に確保するため、納税相談事務の合理化、内部事務の簡素化などの事務処理の一層の効率化に努める。   実地調査は、資産税の各税目を通じて脱漏税額の大きいと認められるものに重点を置き、各事案の内容に応じ必要かつ十分な調査日数を投下してこれを処理する。   特に譲渡所得事案については、事務年度内の処理の完結にこだわることなく、他事務系統との連携調査等又は同行調査を積極的に展開するよう配意する。
 
  (ニ) 財産評価の適否は、相続税、贈与税の適正・公平な課税に極めて大きな影響を及ぼすものであるから、評価基準の作成に当っては、その精度の向上に努め、評価基準の適用に当っては、評価財産の個別事情に即応した的確な運用に配意する。
 
 2 調査査察関係(1)調査課事務運営の目標と重点事項 
調査課所管法人及びその役職員は、我が国経済界を主導する重要な役割を果しており、その社会的、経済的影響力は極めて大きく、それらの納税義務履行の動向が全納税者の納税道義に心理的効果を及ぼすという面からも、また、取引全体の公正明朗化を左右するという面からも、全納税者に与える影響は、極めて大きいといわなければならない。 従って、所管法人の実態を的確には握し、その法人に対し適正な課税を行い、また、必要に応じ役職員の当該法人と関連のある所得についても実態を明らかにし、その正しい課税の実現に資することは、全納税者の納税道義を高めるという税務行政の究極の目標を達成するために不可欠の課題である。 このような見地から、調査課の事務運営においては、所管法人の申告水準の向上を通じて、所管法人を含めた全納税者が自主的にその納税義務を履行する基盤を形成することをその究極の目的とし、次の事項を基本とする。
 
 イ 不正所得等のは握  調査の基本目的は、取引の内容を解明してその実態をは握することにある。従って、調査に当っては、単なる期間損益の修正に意を用いすぎることなく、この目的に従って取引の実態をは握し、特に、大口、悪質な不正所得の発見に重点を置くこととする。 ロ 申告水準同上策の積極化  所管法人に対する充実した調査を基として、申告に対する姿勢の改善を図るよう十分な指導を行い、申告が優良な法人の育成に努める。  また、この指導の効果をその法人の所属業界、系列企業等に浸透させていくための施策を計画的かつ積極的に実施する。 

 ハ 不正取引に係る資料源開発  不正取引の多くが取引当事者相互間の通謀によっている現状に顧み、こうした不正取引を徹底的に解明し、その一連の資料を収集することは、調査の充実のため不可欠の要件である。所管法人は、取引系列の中枢をなしており、また、取引範囲も広いので、全税務的見地から、これを資料源として積極的に開発するよう努める。
 
 
(2)査察事務運営の目標と重点事項 査察事務は、税務行政の一環として、悪質な脱税に対する刑事責任を追及して納税道義の高揚を図ることにより、申告納税制度の維持とその健全な発展に資することを目標としており、査察に期待される役割は今後ますます増大するものと考えられる。 このため、査察事務の運営に当っては、次の点を基本とする。

 イ 悪質、大口な脱税の摘発  査察事務の目的にかんがみ、真に社会的非難に値する悪質かつ大口な脱税の摘発に努めることとし、このため情報活動を一層充実し、情報源の新規開拓、情報技術の改善等を図って、査察対象の的確な選定を期する。 

 ロ 申告水準向上への十分な寄与査察事務は、一般の税務運営の動向に即し、税務全般的基盤に立って運営されるべきものであり、このため課税部門との緊密な連携の下に査察の効果が申告水準の向上に十分寄与するよう配意する。
 
 ハ 組織的、効率的な事務の推進  最近における脱税の広域化、手口の巧妙化に顧み、広域調査態勢の確立、調査技術の開発、向上等を図り組織的、効率的な運営に努める。

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